太宰の人間失格は私の愛読書だった

 ちょっと弁解しておくかな。太宰の人間失格は私の愛読書だった。今でもそうだ。太宰の文学的な才能は圧倒的だと思う。
 ただ、俺が歳を取っちまった。そのあたりの人生ひゅ〜っていう感じから考え方がちと変わる。
 太宰の人間失格で一番の要所はたぶん、こっそり自分には食欲というものがない、と語っているところだ。
 私も食欲というものがない。まあ、ないわけでもなく、おやつとか食ってるわけだから、嘘べぇであるが。このあたりはうまくいえない。
 他人がもくもくと食っているのを、私や太宰のような人は、アライグマのように見ているのだ。この変な感覚というのは、ある一群の人に共通だろう。
 もうちょっと言うと、自分がいやになるのだが、自分の味覚が優れているとか言うつもりはないのだが、どうも味を分析的にとらえている。すごく残酷に料理の味を見ている。もちろん、そういう自分がいやで自暴自棄に食ったりもするのだが。
 それでも、ま、ここまでは許せるかとか食い物を審判している。実は、それは食い物じゃなくて他者をこっそりと審判しているのだ。まあ、そういう人間類型なのだろうと思う。こういう人間はサイテーだと思うし、なかなか救いようがない。
 まあ、とかいうとそれだけで偉そうな感じなのだが、そういう意図ではないし、こういう類型の人間には、そうなんだよねとわかるだろうと思うので、ちょっとだけ書いておく。というか、太宰はすばらしい文学者だよ、ということなんだけど。