密約関係でちと

 ⇒核密約文書 合意は今も効力持つのか / 西日本新聞

「佐藤・ニクソン秘密合意」が現在も法的な効力を持つものかどうかを、政府は米政府とあらためて協議・検証し、見解を表明すべきだろう。

 で、みなさん、核持ち込みだけに関心をもっているけど。
 これ、ちょっと気になることがあって。

 1972年の沖縄返還をめぐる日米交渉の過程で、当時の佐藤栄作首相とニクソン米大統領が69年11月の首脳会談で取り交わした合意議事録の現物である。佐藤氏の遺族が保管していた。
 議事録は、米国は沖縄返還時にすべての核兵器を撤去するものの、極東有事など「重大な緊急事態」の際には沖縄に再び持ち込む権利を有することを明記し、日本側がこれを認めることを確認したものだ。末尾には佐藤、ニクソン両首脳のフルネームの署名がある。

 これ、沖縄返還の合意の結果なんだけど、沖縄返還とは施政権の返還で、沖縄の領土の所属はたぶんいまだ定まっていないはず。
 で、この密約なんだけど、これ日米安保のもっとも重要な部分をなすもので、広義には、日米安保が維持されることで沖縄の施政権が連合国の米国から移譲された、ということで、このロジックだと、日米安保が解消されると、施政権移譲の合意も消えてしまう可能性はゼロではないんじゃないか。
 だれか議論しているかどうかしらないが。
 もともと沖縄の施政権は連合国にあって、米国にあったとは言い難いので、その継承国がどういう権利になっているのかもちょっとわからない。
 あと、形式的と見られているけど、日本は国連(つまり連合国)の敵国のままなので、米国が日米安保を解消します、沖縄の施政権は連合国に委ねますというとき、正式に中国が移管するという手続きは理論的には可能なんじゃないかな。
 この関連の議論は極東ブログにいくつかあるんだけど、あえてリンクは貼りませんよ、と。
 

追記
 反論というのじゃないけど、ちょっとメモ的に。
 ⇒はてなブックマーク - 密約関係でちと - finalventの日記

dekaino 現に日本政府が実効支配してるんで、武力介入がない限り沖縄がとられるということはないだろう。日米安保解消となるなら当然事前に中ロ(+韓国?)との軍事協定の締結が必要で、そこに日本領土の再確認を盛込むはず 2009/12/28

 日本の実効支配はそうだし沖縄サミットもやったので「武力介入がない限り」というのはまあ常識的にはそうなんだが、その「実効支配」の裏付けは実は安保なのね。それと武力介入の以前の介入が想定できないわけではない(傀儡政権化とか)。それと、「当然事前に中ロ(+韓国?)との軍事協定の締結」はたぶん無理。「日本領土の再確認」は連合国に持ちかえし。

pengin-stella blog, finalventの〜, politics, diplomacy, 主権, 安全保障, 条約, 沖縄, WW2 "問題提起"稿趣:附言:(【所在】明文の領土規定法規が無⇒「帰属」に"及ぶ"と釈/ポ宣8条→サ講条約3条→「沖縄返還協定」1条1項:(米国は)「日本国のために放棄」(日本国は)「完全な権能及び責任を引き受ける」/ 2009/12/28 ★(zu2)

 それは領有権と施政権がごっちゃかな。問題は領有権のほうなんだけど。竹島の問題でもそうだけど、軍事的に実効支配された場合、日本のように軍事力がない場合、軍事同盟的な依存がない限り画餅になる。★をつけたzu2さんもわかってないんじゃないかな。

tanakamak 政治 当時の連合国の中国は中華民国では? 2009/12/28

 それは国際的には香港の帰還のときに決着済み。

PledgeCrew 沖縄, 間違い SF講和条約で放棄した領土には沖縄を含む南西諸島は含まれてない。したがって同条約第三条での施政権の米国委託は領有権が日本にあることが前提。WWI後の旧独植民地の場合とは違う。安保はただの二国間条約、無関係 2009/12/28

 「前提」というのは日本側の解釈で、中国(人民共和国)側はこれらの日米合意を「二国間条約」として否定する可能性がある(すでにその見解は一部出している)。また米国側は明示的に領有権については言及しておらず、おそらく日本との軍事同盟がなくなった場合、領有権についてさらに沈黙する可能性がある。もともと領有権は基本的に日本国の問題。竹島的な状況をどう扱うかという問題にやはり帰着する。

zu2 どうだろこれは。論拠の検証が必要ですね。(検証する側に負担がかかるのも困るけど) 2009/12/29

 「論拠の検証」をすればPledgeCrewさんのような理屈になる。というか問題のスキームが違うのですよ。これは単純に、PledgeCrewさんの理屈を中国側に打診してみればいいのです。面白い結果になるから(たぶん、それに答える必要性はないとなるでしょう、その必要性が生じないかぎり)。それと、日本が国連の敵国条項に対象である論拠の検証なども検証してみるといいですよ、日本政府は。逆鱗に触れるから。

mnemo 電波。 2009/12/29

 そういうレッテルを張りたくなるでしょうね。

tano13 歴史, 中国 んー?それは理屈からいうと自衛隊憲法違反だから明日にでも無くなる可能性はあるし、1票の格差が2倍は憲法違反だから年明けやり直し総選挙もありだよね。ってレベルの話では? 2009/12/30

 現実性としてはそんなくらいのレベル。ただし、相手が中国ということ。チベットの歴史などをお忘れ無く。それと、91年フィリピン、スービック米海軍基地が撤去された後の話などもお忘れ無く。
 
追記
 ⇒その話はいくらなんでも無理でしょう - 遠方からの手紙(別館)
 まあ、最初に言うと、この話を政治的な枠組みに持ち込もうとするモチーフが、フレームとしては間違いなんですよ。

現実性のない危機アジりの類にはあまり感心しません。「可能性」というなら、そりゃいろんな可能性があるでしょう。理屈なんてものも、つけようと思えばいくらでもつけられるでしょう。しかし、そういう無理筋の理屈を押したてた危機アジりというのは、むしろ昔は「左翼」の専売特許だったように思いますが。なにかといえば、「ファシズムがくるぞ!」とか、「軍国主義が復活するぞ!」とか。あるいは十年恐慌説や万年危機説とか。

 つまり、こうした話を「危機アジりの類」のフレームに移して、その文脈で批判したいという欲求から反論が形成されるのは間違いでしょ。軍事では有事シナリオを想定しますが(外交でも)、それをサポートする議論が理詰めでどれだけ妄想かというのは話が別です。実際、歴史を振り返ると妄想だからけなんですよ。
 まとめると、この議論を「無理筋の理屈を押したてた危機アジり」のフレームにもっていくことはやめてねというくらいです。それは有事シナリオを封じていくことで平和が達成されるといった理路はないです。
 なので⇒はてなブックマーク - その話はいくらなんでも無理でしょう - 遠方からの手紙(別館)

kenkido こういうこと、ちゃんと明らかにしてくれる人がいないと、妄想や煽りのような、こんなこともあるぞぅ、こうなっちまうぞぅ《批評》が幅を利かすから、とてもありがたい。 2009/12/28

 なにを明らかにしたかなんですよ。竹島が韓国領であることは韓国ではきちんと検証されていますよみたいな話です。それをもって煽りですか。日本政府は冷静に対応していますよ。

PledgeCrew セルクマ 結局、あの記事はアメリカにたてついて日米安保廃棄とか言い出すと危ないぞといってるとしか読めませんね。別に沖縄は日本の「固有の領土」だ、などというつもりはありませんが 2009/12/28

 「としか読めませんね」というのが先に述べたとおり。
 で、ここでPledgeCrewさんは気がついておられるけど、こうした「明らかな」議論が、「沖縄は日本の『固有の領土』だ」につながっている。わかっておられると思うけど、沖縄は日本の固有の領土かどうかは、妄想と言われるだろうけど、明らかとは言い難い。地域住民の合意がけ結果として日本帰属を意味しているというくらいでしょう。PledgeCrewさんはサンフランシスコ講和条約を実は日本のナショナリズムに援用しちゃうことになる。
 さて、このエントリに戻って。

上記のとおり、日本が領有権を失った地域は列挙されています。したがって、その他の地域については、その時点では日本の領有権が引き続き認められたとするのは文理的に言って当然であり、アメリカが施政権を得た南西諸島の一部やその他の地域についてもそのように解釈できます。

 「日本が領有権を失った地域は列挙されています」は単純に「施政権」の誤記ではないかな。それと、「文理」や「解釈」の問題なんですよ。

もし、この条約の規定どおり、アメリカが国連の信託統治領への移行を提案していたら、そこで話が変わっていた可能性はあります。

 その関連は⇒「 ヤマト嫌い―沖縄言論人・池宮城秀意の反骨: 森口 豁: 本」
 で、そもそも「条約の規定どおり、アメリカが国連の信託統治領」に移行が可能であるのはなぜかということなんですよ。で、この国連とは中国を含むわけです。
 話戻して。

しかし、国連への信託統治提案も行なわれぬまま、1972年に沖縄は返還*1されたのだから、アメリカは信託統治の提案権を放棄したのであり、領有権の問題はそこで最終的に解決されたとするのも国際的に見て当然に妥当な話でしょう。したがって、沖縄の領有権について、「アメリカが過去に明示的に言及していない」というのがかりに正しいとしても*2、そのことにはなんの意味もないと言うべきでしょう。

 それは施政権の問題なんです。またこれに現中国が合意されているかということ。
 で、*2だけど。

 *2:もし、そうだとすればそもそも72年の沖縄返還とはなんだったのか、そこでアメリカから日本に返還されたのは、沖縄に関するいかなる権利だったのかという話になるでしょう。もっともfinalventさんは、まさにそういう話がしたいのかもしれませんが。

 だから、最初からそういう話です。なんか私をネット右翼にしたいようなフレームで盛り上がってもらっても困る。いちおう理詰めと歴史経緯で考えてみるということにすぎません。

むろん、「おれたちはそんなものは認めない!」と言うのは、いつの時代でも自由ではあります。しかし、そもそもすでに韓国が実効支配していて、おまけに定住者もいない竹島の問題と沖縄の問題とを同列に並べて論じるというのが理解に苦しみます。そのためには、中国が沖縄に侵攻し、竹島に対する韓国と同様の実効支配を確立するというのが前提になるでしょう。

 だから、実効支配が問題なんです(つまり日米同盟が実効支配している)。それと、「定住者もいない竹島の問題」については⇒産経社説 【主張】竹島と高校解説書 固有の領土となぜ教えぬ - MSN産経ニュース - finalventの日記
 話戻して。

だいいち、日本に対してそのような主張を中国やアメリカがするのに、いったいどのような外交的利益があるのでしょうか。また、そのような無茶な主張に、いったいどこの国が賛同し、支持するのでしょうか。

 これは外交利益があるんですよ(賛同についてはCOP15での中国案とアフリカ諸国をご参考に)。実はサンフランシスコ講和条約が明確でない部分の尖閣諸島を巡る話や、海底ガス資源もだけど、中国はこのシーレーンを確保したいのです。しいていえば、中国としても物騒な話を持ち出さず、米軍をおそれずにこのシーレーンを確保したいわけです。だから、この問題は段階的に出て来ます。
 というか、中国が海底ガス資源で主張している経済水域の議論は、国際的にどうかという問題もあり、これらを一括して妄想と葬り去ることはできないでしょう。

たしかに、中国はサンフランシスコ講和条約に調印していません。当時の中華民国との間には、翌年に日華平和条約*4が締結され、その後、日中国交回復に伴って同条約は破棄されています。しかし、日中平和友好条約*5で、とりあえずは「両締約国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させるものとする」と謳われており、また現在の日中関係を考えても、中国がたとえサンフランシスコ条約に署名していないからといって、いきなり歴史的経緯や現実の状況を無視した無茶を言い出すとは考えにくいでしょう。

 ええ、だからそこは表面的に落ち着いているし、中国は別段日本を帝国侵略したいわけではないです。そういう問題ではないのだけど。
 で、*5でPledgeCrewさんもわかっていらっしゃるけど、「*5:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/nc_heiwa.html この条約については、たしかに具体性に欠けた抽象的条文が多いということは言えますが。」でその具体性にかけた部分などまだよくわからないのです。
 で、中国が「いきなり歴史的経緯や現実の状況を無視した無茶を言い出すとは考えにくいでしょう。」ですが、そう、いきなりは言わないのです。中国はこういうとき、けっこう長期に小出ししてきます。
 で、たとえば、2005年8月1日時事通信「沖縄の日本帰属に疑義=戦後の返還、根拠欠く−中国誌」とかがあるわけです。

 【北京1日時事】中国の国際問題専門誌・世界知識の最新号は、沖縄の日本帰属をめぐる
歴史的経緯を紹介した専門家の論文を掲載。この中で、「戦後の日本による米国からの琉
球接収は国際法上の根拠を欠き、その地位は未確定のままだ」と主張した。
 中国のメディアに沖縄の日本帰属に疑問を呈する論文が登場するのは異例。中国は沖縄
尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権などを日本と争っている。日本側主張の基礎となる
沖縄の帰属についても問題点を指摘し、日本側を揺さぶることが狙いとみられる。 

 もちろん、これが中国の本音といった、そういう本音を中国はもたないのです。中国というのはあらゆる想定があるとすべてそれらを白黒つけずグレーにします。そしてグレーがどのように事態の推移で変わるかというと聡く対応します。日本人もそのくらいグレーな意識をもつべきで、こうした問題に、妄想だ軍国主義だ白黒付けろ、という短絡な発想をすれば、日本はまた戦時のような沸騰暴走するだけです。
 この手の話はまたーりみて、出来るところから手を打つということです。まず、国連の敵国条項をきちんと廃止するだけでけっこういいものですよ。

nessko 「しかし、そういう無理筋の理屈を押したてた危機アジりというのは、むしろ昔は「左翼」の専売特許だったように思いますが。」 2009/12/29

 これも困った部分ですよ。危機アジリなんかしてませんよ。そもそも無理筋と理解する「筋」がなにを意味しているかは、すでに書いたように「沖縄を日本の固有の領土と主張している」ことですよ。つまり、「無理筋」と見えるのは、大日本帝国と同じ地平ですよ。
 
追記
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kanototori sbm, 沖縄 追記に次ぐ追記 2009/12/29

 ワンストップで全部読まれると無駄な誤解が減ってよいかと。

pengin-stella メタブ, 沖縄, 安全保障, 条約 id:zu2 さん、却ってご迷惑を掛けて済みません/で「論拠」の件ではPledgeCrew氏ご指摘の「2条」説が適切/ "主"様の問題意識は、その"形式的な論拠"なぞ、その気になれば簡単に吹っ飛ぶんですがどうします?、の点/ 2009/12/29

 議論的には施政権と領有権の違いがPledgeCrewさんもpengin-stellaさんも、zu2さんも配慮されていないと思いますよ。もともとサンフランシスコ講和条約第三条は施政権の問題です。しいて領有権を想定すれば、連合軍でしょというのが当初からの話なのですが、そこが考慮されないで、日本にあるはずだというナショナリズムの構図を出すのはいかがなものかな、という話です。

PledgeCrew 「固有の領土」論をわざわざ否定しておいたのは、ナショナルな論と区別するためですけどね。むろん沖縄は日本の固有の領土などではありません。「北方領土」ももちろん 2009/12/30

 いえ、「わざわざ否定」というほどの「わざわざ」は心情的なものでしかなかったでしょ。「むろん沖縄は日本の固有の領土などではありません。」が前提でそこから議論しなければならなかった。そして事実として、日米同盟で実効支配されている。また、中華人民共和国はこの問題に留保している。このことの理路には、奇妙なグレー部分がありますよというだけの話です。それを政治的な煽りに読むのは間違いです。というのも、このグレーな話は、多様な解釈を生み出しえるのです。
 それと、「「固有の領土」論をわざわざ否定」というところからもうかがえるのだけど、PledgeCrewさんは、「施政権」について誤記されているのではなく、どうも理解してないご様子に見受けられます。この話、全体像のなかで領有権は留保されているのです。だから、中国が「妄想」みたいなことを言い出すわけです。問題の基底を理解されているなら、「否定」もなにもないでしょ。