読売社説 足利事件 捜査、裁判を徹底検証せよ : 社説・コラム : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

 ちなみに。
 「“ミクロの捜査”1年半 一筋の毛髪が決め手 栃木・足利市の幼女殺害」(1991.12.2)

ロリコン趣味の45歳
 容疑者に導いたのは一筋の毛髪――栃木県足利市の幼女殺害事件で二日未明、同市内の元運転手、菅家利和容疑者(45)が殺人、死体遺棄の疑いで足利署に逮捕されたが、延べ四万人の捜査員を動員したローラー作戦とともに、“DNA捜査”が、四千人に及ぶ変質者リストからの容疑者割り出しにつながった。週末の「隠れ家」でロリコン趣味にひたる地味な男。その反面、保育園のスクールバス運転手を今春まで務めるなど、“幼女の敵”は大胆にもすぐそばに潜んでいた。

 そればかりでもなかったが。
 「足利幼女殺害事件 自供したが…物証なく起訴は困難(解説)」(1992.2.14)

 起訴された真実ちゃん事件では、遺体に付着していた男性の体液と菅家被告のDNA(デオキシリボ核酸)が極めて高い確度で一致するとの遺伝子鑑定が出た。検察側にとって公判を維持するうえで唯一最大のよりどころとなる。しかし、二事件に関しては、これに相当するものが見当たらない。
 宇都宮地検の矢野光邦次席検事は、万弥ちゃん事件で処分保留にした際、「全国で再審無罪が続いており、十年や二十年かかる公判にも耐えられる証拠がなければ起訴は困難」と説明した。

 刑事司法の健全さを示すバロメーターとされる一審判決での無罪率は、昭和六十二、六十三年には過去最低の〇・〇九%にまで下がっていたのが、平成元年は〇・一七%と急上昇する傾向を示している。
 被告の自白しかない両事件で、地検が慎重姿勢を見せる背景には、こうした司法をめぐる情勢がある。

 北海道大の能勢弘之教授(同)も「容疑者が当局に容疑をかけられたまま放置されても、それは法理論上、仕方がない。法治国家としてはむしろ自然だ」と語り、処分保留の措置もやむを得ないとしている。
 二事件が“灰色決着”に終わりそうな気配に、県警や被害者の遺族には虚脱感が漂っている。十数年間にわたって幼女殺害事件の影におびえた足利市民からも「自供しているのに、なぜ……」という素朴な疑問の声が聞かれる。
 だが、捜査当局の証拠価値への過信などによって数々の冤(えん)罪事件が生まれたことを思えば、証拠不十分のまま強引に起訴することは厳に慎まなければならない。

 解説の読売の記者は多少の疑念を持っていたことが伺われる。