日経春秋 ああ、恥ずかしいこの無教養

きょうは節分。豆まきの後、年の数だけ豆を食べれば息災というが、豆の数が増え過ぎてギブアップの中高年も多かろう。豆といえば、旧約聖書に、豆が食べたいばかりに貴重な権利を手放す男が登場する。エサウという荒くれ者だ。▼ある日、狩りから帰ったエサウは双子の弟ヤコブが赤い豆を煮ているのを見て「ヘトヘトだ。早く食わせろ」。弟は「じゃ、長男の権利を譲ってよ」と交換条件を出す。「いいよ。長子権ぐらい」と腹ペコの兄。当座の欲望に駆られた軽挙妄動、価値あるものを軽視した愚か者の挿話だ。

 エサウの話を「価値あるものを軽視した愚か者の挿話」とする、ああ、恥ずかしいこの無教養!
 世の中にこんな美しい話は少ないというほど美しい話なのだよ。というか、この話がわからないでどうしてセム・ハムの世界とつきあっていけるのだろう。