日経新聞社説 「和解金増税」を軽々に言うな

 和解となれば、子どもたちの世代まで負担を背負うことになる巨額の和解金の財源をどうするのか。
 和解金などの支払いで、今後30年間に最大で3.2兆円が必要という。政府内には所得税増税で賄う案があると聞くが、「財源がないから増税」と軽々しく増税を連発しないでもらいたい。和解金支払いの義務が生じた原因は、基本的には旧厚生省の行政過誤であるからだ。
 1948年施行の旧予防接種法ジフテリアや百日ぜきなどの予防接種を国民に義務付けた。予防接種が子どもの健康を守り、感染症のまん延を防いだのは確かだ。
 しかし、旧厚生省が注射針と筒を1回ずつ交換するよう通知したのは88年になってだ。すでに日本は経済大国となり、先進国では使い捨て注射器の使用が常識だった。これほど長く危険な注射器の使い回しを放置した点で、厚生行政の過誤が問われなければなるまい。

 問題を引き起こした政府自身が、不要な施設の売却や意義の薄れた事業の打ち切りなどで、まずもって資金を捻出するのが筋である。
 長い間にわたって、注射器の使い回しを放置した旧厚生省の幹部は責めを免れないし、現場で接種に携わった医師や医療機関も救済への姿勢を示してしかるべきではないか。行政や医療界がこうしたことをしないで、国民に税の負担を求めても、納得は得られない。

 それでも新税に頼るしかないのではないかな。