内田先生/新婚/歯医者通いさんのネタに突っ込むのは野暮だけど、まあ、これはちょっと突っ込むかな

 ⇒基地問題再論 (内田樹の研究室)

定数としてまず決めておくべきことは、日本国民は国内の米軍基地を「いずれ撤去すべきもの」と思っているのか、「恒久的に存続すべきもの」と思っているのか、どちらか、である。

 隠れた前提に、日本は米国の属国だ論があるというかそれが先生の脳内に自明になっているからこういう問いがひょこっとオモテに出るのだろうと思う。まあ、確かに、実態は属国でもあるのだけど、そういうふうに議論を持って行くと、未来は展望できない。じゃあ、何?
 こういう問題はまず超越的な正義とかなんかメタな前提を一旦方法論上置いて、手続き論で整理してみるとよいのな。するとどうなるか?
 これは、日本と米国の軍事同盟に従属することなのな。
 つまり、軍事同盟があり、その具体化として米軍駐留基地がある。で、こういうのは別段日本だけが特殊ということでもない。
 軍事同盟の一つの帰結として米軍基地があるというのだから、軍事同盟はどうあるべきなの?と問うのが正しいのであって、それをスポンと飛び越えて米軍記事が「恒久的に存続すべきもの」とかいうのは論理飛躍っていうか破綻な。

私は「日本国内にある駐留米軍基地がすべての撤去されること」を求めるのは主権国家として当然の要求であると思っている。

 それはだから、実際上軍事同盟を破棄しますよということ。
 そしてそれは、前提として日本国民の前提は取れていますか、ということ。
 ただ、ここで内田先生なりの合意論は出てくる。

私はとりあえず、「国内に治外法権の外国軍の駐留基地を持つ限り、その国は主権国家としての条件を全うしていない」という一般論についての国民的合意を形成したいと願っている。

 議論が巧妙にというかいつもの内田先生の芸風でゆがんでいるのだけど、一応その論理でいうと、同盟から帰結される軍の駐留ということではなくて、「治外法権の外国軍の駐留」が問題になっている。であれば、そこで問われるのは、「治外法権」なのか?ということ。
 逆の言い方をすれば、地位協定を是正すれば、「外国軍の駐留」はOKというのが内田先生の議論ということになる。(いや本来なら、それもまた同盟のあり方から演繹することなんだけどね)。
 で、いちおう内田先生フレームで「治外法権」なのか?をどう問うかなんだけど、その議論は途絶えてしまっている。というか、それって、沖縄問題でもないんだけど。
 で、次に米国から日本は侮辱されているという奇っ怪な感情論が出てくるのだけど。

国防総省は沖縄の海兵隊基地については、県外移転も問題外であるほどに軍事的重要性があると言い、日本のメディアはそれを鵜呑みにしている。だが、その言い分とアメリカが海東アジア最大の軍事拠点と北朝鮮と国境を接する国の基地を縮小しているという事実のあいだにどういう整合性があるのか。とりあえず私たちにわかるのは、日本国民は韓国国民やフィリピン国民よりもアメリカに「侮られている」ということである。

 あー、逆です。日本が頼りにされているということです。自由主義経済を維持するための同盟国として育てたいと思っている。このあたりは、視点を豪州に置くとわかる。豪州はその仲介をしたいといろいろ動いていた(強いて言うとハワード首相時代。でも今でも対中国で同じ路線に戻りつつある)。

国は90年代にフィリピンのクラーク空軍基地スービック海軍基地から撤退した。2008年には韓国内の基地を三分の一に縮小し、ソウル近郊の龍山基地を返還することに合意した

 フィリピン撤退で中国の海域はぐっと太平洋に押し出して、東アジア諸国は実際には困っている。韓国基地削減は、在韓米人に弾が当たるのを避けるため。それと、盧武鉉政権への脅し。で、脅しは効いた。それと先生は韓国は反米的な気風が強いみたく思っているみたいだけど、かの国は有志同盟に自国兵を送っているんですよ。それが惨めなほど国際的に評価されなくてもやっている。米国の世界体制をきちんと支えようとする側面もある。

朝鮮半島で紛争が起きた場合、いちばん時間的ロスが少ないのは、紛争地域に海兵隊基地があることである。ところが、朝鮮半島の米軍は基地の縮小を受け容れている。この事実はどう説明できるのであろうか。別にそれほどややこしい話ではない。韓国国内に基地を持っていることには軍略上の利益がある。基地をもっていることで韓国内に深刻な反米運動がおこることには外交上の損失がある。利益と損失を考量した上で、アメリカ政府は外交上の損失を避けた。

 北朝鮮問題については中国との関係もあってこれも難しい。これは朝鮮戦争が実質、中米戦争だったことを思えば、米国と中国のスタンスは理解しやすい。それと、全体構造で見ると、北朝鮮が韓国の軍事的な脅威となることは、戦争という文脈ではない。北朝鮮がミサイルと核に入れあげているのは、もうそれしかないということ。だから、中国が蛇口を止めたら終わりということで、局地戦的には今回の哨戒艦の問題はあるけど、全面戦争的なものには構造的にならない。
 そして問題は、中台と中日のパワーバランスの問題。台湾問題への言及がないとこの件の沖縄問題を論じたことにはならない。
 これ、誤解している人が多いのだけど、日本は米国の国家戦略に絶対的に必要というものでもない。親中派の米国勢力というのも、ヘンリー・ルースのころからしぶとくあって、いざとなれば、日本の同盟を解消してもよいというのはある。ただ、現実には不安定な弧の問題はあるけど。いずれにしても、そうなったとき、日本のシーレーンは中国下に置かれ、中国経済の発展の二次的な制御を受けるようになる。経済的には中国の属国化する。それが悪いということではなく、日本国民がそれを選択するならそれもあり。
 その意味では。

つまり、米国の同盟国が「恒久的な米軍基地が国内にあることは同盟関係にむしろマイナスである」という主張をなした場合に、アメリカはその主張が合理的であれば、聞く用意がある、ということである。

 それはそのとおり。何が見えるかは先に書いたとおりだけど。

けれども、その場合には、やはりコメントをするたびごとに「われわれはアメリカの軍事的属国民であり、軍事に関しては、アメリカの意思に反する政策決定をすることができないのだ」ということを明らかにし、「だから」という接続詞のあとに、自説を展開していただきたいと思う。

 だから、その前提を強いる内田先生の話題はむちゃくちゃな議論。まあ、ネタなんでしょうけど、いつもの。
 
追記

Gustav13 「実態は属国でもあるのだけど」→ならそう国民に説明すべきでしょう。「未来は展望できない」→最後まで読んでも、米軍基地が存続することでの展望できる未来が分からなかった。現状維持というならそれもアリだけど 2010/05/08

 ああ、こういう読者さんが内田先生にはいらっしゃるのか。

「実態は属国でもあるのだけど」→ならそう国民に説明すべきでしょう。

 そうではなくて、実態論からではほぐれないし、混迷するばかりだから、整理して考えましょうということ。

「未来は展望できない」→最後まで読んでも、米軍基地が存続することでの展望できる未来が分からなかった。

 そうではなくて、道筋たてて考えていかないと「未来は展望できない」よということ。別の言い方をすれば、中国の経済的な属国になりますよという未来展望は述べておきました。わかった?
 

pqrs 「属国」という言葉を、アメリカ相手には注意深く使うことを勧め、中国相手には安易に使っている。属国なんて言葉はそもそも使うべきではないとすればもっと議論はすっきりする。 2010/05/08

 あー、「日本民族自治区」ですっきり。