日経春秋 春秋(11/12) : NIKKEI NET(日経ネット)秋

 新井白石も悩んだ。本居宣長も大いに首をひねった。明治になってからは学者たちの議論が一段とかまびすしく、謎解きに憑(つ)かれた郷土史家や考古学ファンは今も数知れない。女王・卑弥呼が治めたという邪馬台国の所在地論争である。
▼罪作りなのは古代中国の史書魏志倭人伝」ではあろう。なにしろその記述は女王の国への道程があやふやだ。南へ南へ「水行十日陸行一月」などと書いてあるから正直にたどると列島のはるか南海上に出てしまう。先人はこれを誤記だ、方角の勘違いだと様々に解釈し、畿内説と九州説の対立に輪をかけてきた。

 いや、これは正直に読めばいのですよ、つまり、「列島のはるか南海上に出てしまう」が正解ですよ。実際読むとわかるけど、同地は南方的な民俗の記載が多い。沖縄のハジチなんかも書かれている。南方が意識されている。まあ、鵜飼のような内地的な記載もないわけではないけど。
 位置的には台湾かそれより南方に位置している。それは当然のことで、魏にとって都合のよい位置、敵国の裏側に友好国を配したかっただけの話。
 そもそもあの時代の日本列島に「日本国家」みたいの幻視しちゃうのが近代というものの幻想で、その端緒の「新井白石も悩んだ。本居宣長も大いに首をひねった」のも当然のこと。それ以前の人は別段、どうでもよかった。