大人毛ない話

 まいどの話。爺とか言われて、まあ外見もここでの文章もそうというか人がどう考えるのかはご勝手に以上はないが、実際に老いていく自分ものに閉じ込められている自分の少年みたいな意識はそれはそれで閉塞的な苦しさはある。
 50歳の男にもなれば40歳女でも若いし、そう見えないこともないのだが、反面、20代の女ですら、どこかしら年上に見える心性もいまだにある。そして、どうもこれは一生克服することはなかったなというのは、女への怯えというものだ。恐怖と言ってもいいかもしれないが、微妙なものがある。
 吉行淳之介はあれで生涯女が怖かった。これは「「 春夏秋冬 女は怖い―なんにもわるいことしないのに (光文社文庫)」」と洒落のめしている背景にあるもので、おそらく生物的な心性に支えられた女というもの、生物的な関与への恐怖のようなものだっただろう。講演をしていると彼はモテる男でもあり女がぞろっと集まるのだが、みんな自分にあのマンコ向けて座っているのかと思うと怖いと言っていた。彼はマンコが怖い男、少年でもあった。まあ、しかし、この件については、私は彼の感性とは違うが。
 私が、女は怖いと思うのは、群れて今でいうところのイケメン男に群がり、きゃーきゃーいうところだ。バーゲン品に群がる光景もけっこう気分が悪いが。
 イケメン好きが悪いとも思わない。男なんか大半は面食いだろう(ただ、実際の恋愛とかでは男はあまりそういう行動はしないものだろうとは思うが)。女が怖いというのは、群れる、というのもだが、実際の群れではなく、群れ的な心性で、そういう男と、するっとセックスするところだ。女を群れ付けるイケメン男だから、という、群れ的な匿名性のなかにすっと入り込んでしまう。イケメンでぽーっとできてしかも、男からの恋愛感情みたいな後腐れ悪い関係がないとわかると、かなりの女がするっとセックスに及ぶ。たいていの男はイケメンではないので、そういう世界にある怨恨感を持つし、私はこれがかなり許せない。もっとも、これもそれが倫理的にいけないというのではない。そういう匿名性の性をかかえていそうな女はごめんこうむりますよというだけだ。なんか人間種に見えるけど、ちょっとボクとは関係ない種なんだから、ボクは別のメートを探しますからみたいな。

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明日また電話するよ: 山本 直樹
 収録の「渚にて」が一年前バイト仲間だった女が結婚したのに、ただ、やりに来たという設定で、上の文脈とちょっと違うのだが、ちょっと似たところというか、似た、男の側の勘違いみたいなズレが少し描かれている。いや、この作品のテーマと私が感得するところは違うのだろうとは思う。女だってただ、やりますよ、ということの、残された男というものかもしれない。
 話戻して、いや男だって、匿名性というか、ある面と体の女なら、ただセックスするじゃないか、売春なんか、そうだろというのもあるかもしれない。それは世間を見ていると、そうだな、男というのはそうだなとは理解できる。自分はというと、しない。たとえば、行きずりの女性とやることになったとしても、後腐れなくというより、どこかでこの女が俺を愛してくれればどんなにかいいのに、なのに俺はそれを得られることはないのだよな、そしてただ性欲みたいなものに疎外されて、まあ、やっているだけだよな的な心情が残るだろうと思う。まあ、弁解めくわけじゃないが、そういう経験もない。踏み込んだらそうなるというあたりで、そういうなにか、女を信じたいよ、女に助けて欲しいよと性に流れ混む自分に耐えられなかったな。そして、人生においてそういうものを垣間見せる季節は過ぎ去った。
 これを言うと自惚れみたいなものかもしれないが、私は若いころ女好き(女が好むタイプのありがちな男面)でもなかったのは確かだが、それでもある種の女にはそうだったかもしれないし、私はなんかばりばり自分の周りにバリアを貼る人だったから、その種の女は近寄れなかったかもしれない。私は人をよく傷付けていたし。ただ、そういう女のなかに、結局、そういう人の人生の季節でしか見ることのできない、女の優しさというものを見なかったのかもしれないなとは思う。この年こくと、世の中には優しい女というものがいるのかもしれんと思う。
 ただ、その流れで恋愛はしなかっただろう。別の流れでヤリもしなかったように。
 身体が老いて、そこに閉じ込められたようになると、そういう人生の季節は、外界から終わる。内面にそうした疼きがまだあるかというと、そうあるというものでもない。奇妙なものだ。というか。
 先日、NHKのコメ食う人々で高見順の娘、高見恭子が出てきた。私より2つ年下が、彼女は相応の老け顔になっていた。婆ぁとは思わなかった。老いたとは思った、というか、3つ年上の高畑淳子を見ても、そう思う。そして、人は、男も女も、年相応に、親的な心性をもち、それが若い時代の性の思い奇妙に交錯する。