ざっと読んだが

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『こころ』は本当に名作か―正直者の名作案内 (新潮新書): 小谷野 敦
 まあ、近代文学についてはそういう見方もあるかなというと、英米文学というか洋物についてはごく普通の定見という感じはした。
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バカのための読書術 (ちくま新書): 小谷野 敦
 これを特化したような印象受けた。率直にいうと、これのほうがよいブックガイドかなとは思ったが。
 新潮新書のほうの標題は出版側で付けたのではないかと思うが、これで『こころ』は名作ではないという意見が広まるのかはよくわからないが、小谷野が同書で指摘しているように、亀井勝一郎から高校教科書というあたりの二次的な影響は大きいだろう。
 個人的には『こころ』については名作で、その解説の白眉、というほどまとまってはいないが、これ↓が、深い指摘になっているかとは思う。
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山本七平の日本の歴史〈上〉 (B選書): 山本 七平
 上巻の半分くらいだけ読むとよい。全体構図はとても難しい。山本七平イザヤ・ベンダサンというだけで読まれない人もいるだろうが、率直にいってその程度の反射行動を起こす人にはおよそ読める本ではないから別にどうということでもないだろう。
 ちょっと補足すると、イザヤ・ベンダサン漱石がわかれば日本人はわかると縷説していたが、どうも山本七平漱石をよく理解していない。ユーモアという点では理解しているが、どうも男女関係というか恋愛に対する感性の差のようなものが、ベンダサンと七平の間にあるようにも思えるというか、そのあたりで、同書もまた七平の議論とベンダサンの議論との奇妙にぎくしゃくとした感じはする。
 そこまで読まずとも、これ↓は全体構図についての、よい評論になっている。
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戦後日本の論点―山本七平の見た日本 (ちくま新書): 高澤 秀次
 すでに絶版かというのと、高澤がこの問題をこれ以上掘れそうにないのも読んでいてわかるのが残念ではある。
 話をもとの小谷野の新書に戻すと、おそらく「恋愛」と近代文学の関連に問うべきことが多いのだろうなとは察するが、いわゆる正統的なアカデミックな文学研究の志向と、そのわりに「日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で(水村美苗)」あたりへの時流的な色目的な視線には少し矛盾があるようには思える。小谷野自身が恋愛の文学に進んでいるあたりにも、ある意味で矛盾のようなものはあるかもしれないが、ちょっと言及しづらい。
 そういえば来週NHKでキーンのインタビューがある。それほどという内容はないと思うが、少し気になるので録画したい。