村上春樹がほんとにすごいところは……

 ⇒アンチ春樹ストの私が村上春樹の凄さについて羅列してみるよ! - 国語の成績が悪い
 まあ、そういうのもあるけど。
 村上春樹がほんとにすごいところは、韓国や中国に多数の読者を得ているとこだよ。
 欧米で読まれているというなら、まあ、いわゆる優れた文学なんだけど。
 村上春樹は実はアジアを変えてしまったこと。
 
 あとついでにいうと。
 いわゆる村上春樹的なイメージというのは初期の作品のテンプレになりがちだけど、春樹文学がずしんとし始めるのは、クロニクルのノモンハン事件を扱うあたりかな。
 オウム事件阪神大震災という歴史の、無意識的な暴力性みたいなのから、日本の近代史に潜む暴力性の本源みたいのを探ろうとしはじめたところ。
 この根はワンダーランドのヤミクロとかにもあるし、ダンスにも見られるのだけど。そういうなんというか、ニューヨーカー的ないわゆるきれいな文学的な技巧をすてて、むしろ第三の新人のような、日本語の文学に回帰してさらに歴史に向き合ったところ。(たぶん、春樹は小島信夫に近い。)
 ただ、この大きな部分がきちんと一貫性をもって書かれているかというと、微妙ではあるけど。
 あと、アジアで読まれているのは、実は、春樹文学はポルノグラフィーだから。そしてそれは、難しいのだけど、よい意味でポルノグラフィーだから。
 彼は人の心を揺さぶるために性と暴力を描いてきたからということかな。
 倫理やスタイルに堕落してないところがすごい、ともいえるのだけど。
 日本の知識人は、倫理やスタイル(知的っぽく見せるとかもそれ)に堕落しがちなのは、編集者のほうがいちまい上だから。ただ、春樹はそれよりさらに上というか、まあ、自然に眼中になかったんだろうと思うというか、すごい伴侶を得ていたというか。

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若い読者のための短編小説案内 (文春文庫): 村上 春樹