ひさぶりに夜のポエム

 
遠くから見ると茸のような岩の町の
ときおり硬い金属の音のするような曲がり角を
黒づくめの老婆たちが
網を折るように行き交っていた
私は窓のないバスで見ていたのだが
低い松がひとつあるところで呼び鈴のひもを引いて降りた
鋭角な夕陽が私の影を引きはがそうとしている
どこに行くわけでもないし
このまま夜を迎えるのかもしれないと思いつつ
手に持ったエビアンの蓋をひねり一口飲む
昨晩の大きなうさぎのような少女は
メディナで生まれたのよと言っていたことを思い出す
あなたはなぜ悲しい歌を歌うことができないのと
私を罵ったが私には思い当たることはなかった
それでもこのカードはあなたのカードでしょ
私たちのお母さんじゃないのと
手渡したクイーンのカードが笑っていた
ゆで卵を頬張った男が私たちを見て
そっと目を背けたとき
砂埃を吸った汗の臭いがした
遠くから青いボンネットのトラックがやってきて過ぎる
たぶんメディナはこの近くだろう
砂の臭いがそう思わせる
――わかっているじゃないの
風に織り込まれた彼女はつぶやく
――大丈夫ミサまでには間に合う