変ポ

 
         ある深夜
         無性に文房具屋に行きたくなる
         ガラスと白い壁の部屋が少ししんとして
         紙と金属と皮の臭いのなかで
         客は私一人だけ
         蛍光灯の白い光りがところどころ
         細かく反射し
         細めた目で振り返ると
         白く若い裸体の女が
         自分の裸身を知らないように立ちながら
         口元だけが幾何学的に微笑んでいる
         私はアルミでできた二〇センチほどの定規と
         木の臭いのする鉛筆と
         赤いダーマトグラフが欲しいのです
         一つだけ失った一センチほどのワッシャを
         一メートル下のリノリウムの床に落とすように
         女の乳首が呼吸で上下に揺れているところに
         目線を落として訊く
         それは、どこに、あるのですか?
         女はそれはここにありますと答え
         展示された天球儀のように横に向きながら
         棚から冷えた定規を取って私に手渡し
         鉛筆のありかを指さす
         それから彼女は赤いダーマトグラフを剥きながら
         ほら、これは、こうして、手にも、腕にも
         腹にも、赤い線が引けますよと
         身体に赤い線を書き込みながら
         白い歯を見せて笑う