ぽ・え・む

ポエム
 
          10歳のときだった
          二階のその教室の窓際の机
          理科の授業だったと思う
          教科書にアゲハチョウの変態の写真が
          数点あった
          窓から日差しが机にあたり
          教科書に当たったとき
          私の脳のなかで
          アゲハチョウのさなぎが蝶になるように
          なにかが起きた
          私が別人になるというのではなかったが
          私の脳はそのとき変わった
          表面的には学校の成績が上がった
          
          19歳のときだった
          受験を控えた冬の夜だったかと思う
          降り積もる雪のように
          あるいはその雪崩のように
          私の過去の記憶が暴発するように吹き出し
          おまえは過去と別れるのだと告げた
          表面的には私は変わらなかった
          
          25歳のときだった
          私の心のなかの深い森のなかに
          色とりどりの子供たちが集まって
          ダンスをした
          シャガールの天使や赤い堕天使が
          その夜を舞った
          私はその光景や
          そのような光景の絵を描き続けた
          ある日絵は終わった
          二度とあのような絵を描いたことがない
          
          38歳くらいのときだった
          私は沖縄の熱い道路の脇に立ち
          熱気に揺れる乾いた光景を見ながら
          私はいる
          私はここに存在する
          しかし私は溶けていくと
          そう思った
          私はもう私には戻らず
          ここで海に消えて死ぬのだと思った
          表面的にはあまり変わらなかった
          
          46歳くらいだろうか
          私は東京にいた
          コラージュの中にいるようだった
          私は過去の東京と今の東京のなかにいた
          あれほど見たかった秋の色彩のなかに
          織り込まれた
          私はどう変わるというのだろう
          私は東京に戻ったというわけでもなかったのだろう
          
          今年私は50歳になる
          桜の花びらを浴びながら
          そしてアシカのように水のなかを泳ぎながら
          遠い言葉にならない歌を聴きながら
          すべての関心を失いながら
          私のなかで何がまた変わりだしているのを感じる
          それがどこで
          なにに向かっているのかわからないが
          
          たぶん私は
          踊るだろう
          小さな小さな天使を掴もうとするように
          ダンス・ダンス・ダンス
          ダンス・ダンス・ダンス
          
          たぶん私は
          水のなかに体をくねらすように
          風の中を踊るだろう
          ダンス・ダンス・ダンス
          ダンス・ダンス・ダンス
          
          10歳のときの私に会って
          19歳のときの私に会って
          25歳のときの私に会って
          そしてそして
          今、この私はここにいる
          変わったり
          変わらなかったり
          分かれたり戻ったり
          
          石のように蹲って
          泣きながら
          川の中を朝に向かっていく
          流れていくように
          目覚めながら眠りながら