こくそ
「こくそ」という言葉を聞いて、諸君はなにを思い浮かべるであろうか。
昭和32年産まれで、ディアスポラの信州人である私が思い浮かべるのは、
蚕糞
である。
蚕の糞と書いて「こくそ」と読む。
蚕には「こ」という読み方があり、その呼び名は万葉集のころから続いている。
「蚕糞」は、ATOKなんぞでは変換しない。IMEもだめ。
しかし辞書には載っている。
⇒こくそ 3 1 【▽蚕▼糞】 - goo 辞書
こくそ 3 1 【▽蚕▼糞】
〔「こぐそ」とも〕カイコのふん。
ほうらね。
しかしそれしかもう情報はない。嘆かわしい。
ここで諸君等勉強大好きクラブの会員は思わなくてはならない、なぜ、蚕の糞が、由緒正しい、美しい日本語になっているのか、と。
当然ながら、ミミズの糞も、カブトムシの糞も、毛虫の糞も、そんなものに呼称はないんだ。なのに、蚕の糞には、こくそ、という言葉があり、これは信州に生きている。
信州人が蚕を育て生計の資としてきたというのもある。生き物を育てるのは糞の始末だからだ。
しかし、それだけではない。
蚕糞は原料としても重要だったのである。
何の原料か。
クロロフィルである。
クロロフィルはケロロフィルとは関係ないといったつまらぬギャグにはここでは立ち入らない。
葉緑素でもある。これを何に使うかといえば、消臭であり、口臭を除くためのガムに使ったのである。
焼き肉屋の帰りにでもらうあれだ。
そう、諸君等は、蚕糞を噛んでいたのである……というのは昔の話だろうと思う……たぶん。
以下、略。