終風日報編集後記 伊良部秀輝(42)、自殺か

 本紙にもあるが、伊良部秀輝さんが死去。自殺らしい。私は彼については通り一遍のことしか知らないが、自殺とは穏やかな話ではない。▼そして42歳。厄年である。ああ、厄年か。厄年は迷信ではあるが、経験的な知恵と言えないこともない。儀礼的な厄払いなどまったく意味はないが、人生の半ばで生き方が問い直される時期はそのころに来る。▼「子曰く、後生畏るべし」は人のよく知るところ。40歳を超えたあたりでなおそう思う。これに続けて孔子は言う、「四十五十にして聞こゆることなきは、これ亦畏るるに足らざるのみ」▼40歳、50歳になって世に聞こえざる者は畏敬するまでもない。青雲の志が潰え、凡々たる人間となって生きていく。否定的な言葉にも聞こえる。▼「方法序説」の正式名は「理性を正しく導き、もろもろの知識の中に真理を探究するための方法序説」と言う。たいそうな書名ではあるがデカルトは匿名で書いた。41歳の時である。彼は大きな名を残すに至るが、その年の彼は四十にして聞こゆることなく世に隠れようとしていたものだった。