「ブラック・スワン」、読んだ。

 とんでもない本だった。
 いや、トンデモ本ではない。すごい本というのとも違う。村上春樹の小説なんかに近い文体とテーマでもある。
 総じて呆れた。こういうやつがいるんだなぁというか。
 自分はタレブほどではないが、世界を変なふうに考えるのだけど、タレブのほうは筋金入りの変だった。
 というか、これは、シリアの正教徒的というのか、とにかく私たちが現代社会普通に目にするタイプの知性ではなくて、古典の知性だ。ギリシア哲学とかに近い。
 数学的にはというか、哲学的には、人口に膾炙された「ブラック・スワン」の問題というより、ベルカーブではないランダム性の持つ必然というあたりだろう。ということで、マンデルブロ的な安定分布の変異なのだろうが、つまり、それすらもわからないこともあるというのが世界認識の前提なわけか。
 私はブラック-ショールズ方程式とか理解できないのだが、その前提がベルカーブだとしたら、それは必然的にブラック・スワンを出現させることになるのだろう。へぇと思った。
 あと、これがごく単純な話だけど、現実世界というか自然がランダム性を見せるのは、根底的な物質の不確定性原理とかではなく、多元性というか、人間の認識の問題なんだろうな。観察者問題とは別の意味で、理解者問題とでもいうべきものなのだろう。

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ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質: ナシーム・ニコラス・タレブ, 望月 衛
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ブラック・スワン[下]―不確実性とリスクの本質: ナシーム・ニコラス・タレブ, 望月 衛
 もう少し考えてから、自分の考えをブログのほうに書くかもしれない。
 どっちかというと文系的な文体で書かれているけど、統計学や経済学とか哲学の基本とかないと、ちょっとしたディテールがわかりづらいかもしれないとは思ったというか、自分がわかっているというわけでもないが。
 タレブはポパーが気に入っているようだし、たぶん、後期のポパーのもの、実在論とか、読んでいるだろうと思うが、そういう部分は出て来ない。そういうところはタレブには関心がなく、その分実務的な印象を受ける。人間原理の理解なども、分析哲学的な深みはなくあっさり切っていた。ヴィトゲンシュタインを曖昧な修辞とするのは、前期ポパーの文脈からわからないでもないけど。
 タレブは文学が好きなのだろうな。エーコを気に入っているのがよくわかる。独自のエロスの感性もあるように思うのだけど、抑制的に書かれているように思えた。
 今回の危機についてはブラック・スワンというより、リスク管理だったのではないかな。
 こんな感じ⇒「ブラックスワン」の助言、プラス50%超の運用成績生む−大暴落でも - Bloomberg.com
 これも⇒翻訳者が語る『ブラック・スワン』 原書発売から訳書発売までに見たこと | 注目の新刊ちょっと読み | ダイヤモンド・オンライン