日経春秋 春秋(6/26)

 「心配ありません」。ズブの素人に裁判員など務まるのかと不安を訴える声に、最高裁が繰り返す決まり文句だ。法律の知識はいりません。分からないことがあったら裁判官が説明します。みなさんは常識に基づいて率直な判断を――。▼その通りかもしれないが、頼りにしたいプロたちが道を誤り評議をあらぬ方向に持っていったらどうしよう。再審での無罪が確実になった足利事件の顛末(てんまつ)をみれば、それがとても気にかかる。一審から最高裁まで、さらに再審請求の一審で、並み居る裁判官が虚偽の自白とずさんなDNA鑑定を鵜呑(うの)みにしてきた。

 いやだから普通の常識のある市民の参加が必要なんだが。

冤罪(えんざい)をつくり上げた警察や検察の罪はあまりにも深い。そして計14人もの裁判官がこれを見抜けなかった現実にも背筋が寒くなる思いだ。なぜ司法はこれほどの過ちを犯したのか。なぜ無実の叫びが聞けなかったのか。せめて再審裁判で誤判を重ねた原因を解き明かさなければ、裁判員制度にも影が落ちるだろう。

 ジャーナリズムも同罪なんだが。