日経春秋 春秋(9/12)

 名刺に刷られた肩書の意味が分からず、戸惑うことがある。少し前までは銀行の「調査役」が代表格だった。駆け出し記者のころ、何を調査しているのかと質問して恥をかいた経験がある。「部付部長」や「担当部長」にも悩まされた。▼そんな謎の肩書から産業構造のきしみが聞こえてきた。人余りの時代、大企業はポスト作りのため、なるべく偉そうにみえる肩書に創意工夫を凝らした。権限がなくてもいい。部下が1人もいなくてもいい。体面さえ繕えばよかった。リストラや買収が日常茶飯事になった今、振り返れば80年代は牧歌的だった。▼最近よくお目にかかる謎の肩書の代表は「エバンジェリスト」だろう。本来の意味はキリスト教の伝道師だが、今ではIT企業から他の製造業まで広がりつつある。仕事の中身を聞けば合点がいく。新技術や設計手法を社外や社内に広めるのが使命。知識だけでなく、分かりやすく伝える力がなくては務まらない。

 ⇒@IT Special 「難解技術を分かりやすく伝道する」マイクロソフトのエバンジェリスト 第1回

 皆さんは「エバンジェリスト」という肩書きをご存じでしょうか。語源となっている“evangelist”は、「(キリスト教の)伝道者」という意味です。何かを啓蒙する役割りともいえます。ここ数年、IT関連企業を中心に、この「エバンジェリスト」を肩書きとする人をよく目にするようになりました。マイクロソフトもそうしたIT企業の1つで、数年前からエバンンジェリストと呼ばれる人たちが活動しています。「エバンジェリスト」とはどういう仕事なのか? なぜそのような仕事が必要なのかを本稿でご紹介しましょう。

 なぜその技術や製品は生み出されたのか。どのような用途にどう使うと長所が生きるのか。その技術や製品を使った場合、どのようなソリューションができ、そのソリューションがユーザーにどのような価値を提供するのか。技術や製品を正しく位置づけてもらうためには、中長期的な技術トレンドも踏まえながら、IT技術者にそれらを分かりやすく伝道して(語り伝えて)いかなければなりません。これが、エバンジェリストの仕事なのです。