曇天

 だいぶ涼しい。天気図も秋っぽくなりつつある。というか、草木を見ると着実に秋だ。東京に戻ってから本土の秋は美しいものだと思ったものだが、今年はちょっと奇妙な違和感がある。うまくいえない。飽きたというのでもない。
 若い頃、とてもつらかった頃、まったく誰も助けてくれなかったとまではいえないが、つまるところ誰も助けてはくれなかった。人生というのはそういうもんだなと諦めたが、そういう自分の人生観は同時に、他者を素通りするようになったのかもしれない。
 私は、語ればいちおう父母を慕うようなことを言うし、肉親への感情というのは微妙なものだが、世間で言われるような親の愛情みたいのはついに心に根付かなかった。まあ、そういう人が少ないわけでもなく、むしろ多いのかもしれないので、そのことはどうでもいいのだが、そういう人生の初期設定というのは、楽なものではないな。
 それを言い出せば、よく発狂もせず、自殺せずに生きてきたが、けしてその勝利者でもない。ごく個人的には勝利の部類なのだろうが、世の中には私の生存などなんの意味もない。と、いう感性もまた、世の中と自分を冷たく、遠く隔てている。
 心というのは言葉で表現できるものではないが、世の中なんかどうでもいいやということと、ダルフールで餓死・殺戮される子供たちへの狂おしい思いが同居する。そうした思いもついぞ解決されない。理想とやらも解決しない。