おカネと時間

 説教じみた話を書いているとほんと年寄り臭くなるし、年寄り臭いというだけで嫌悪感を誘うものだし、嫌悪感があれば誤解が誘導されるものなので、ちょいとだけ、仕事を辞める云々の補足みたいなこと。
 仕事というのは、世の中の少なからずの人が、自己実現とか報酬と思っている。違っているとは言わないが、こっそり言うと違っているというか大間違いだと思う。ではなにか、時間の拘束である。自分の人生の時間が自分の思い通りにならないという拘束こそが仕事の本質なのである。そりゃないっしょとか言われるか。
 仕事は命ぜられてやるものではない主体的にやるものだ、よって、拘束じゃない、自らが求めたものだ、とか、言う?
 いや、そこがこの問題の要なのだ。
 そして、この根幹の問題に、マルクスはとっても明快なことを言っている、だから、マルクスは根源的な思想家なのである。
 労働とは時間なのだ、と。
 本当はそうじゃない、が、時間として抽象化されるのだと。
 そして、労働とはその時間によってかたち作られる。
 マルクスは人の本質は労働であるという。自然に働きかけることよって自己を自然のなかに弁証法として実現することになる。そしてその働きかけが分業の必然性から人の社会をかたち作る。
 ではその分業がどのように人類社会を変化させ、人間をどのような状況に追い込んだのか。というあたりで、資本論の萌芽があり、マルクスの思想は資本論の側から見られる。
 逆なのだ。
 人間の労働=時間と社会の関係のありかたが、社会の関係性=権力によて人間の労働=時間がどのように表れるかということが資本主義の世界=社会でどうなるかとマルクスは考えているのだ。
 資本主義の世界において労働者は生産手段を持たない。
 ぶっちゃけいうと労働者は自己の労働を特殊な分業でしか実現できない。つまり、雇用という関係性になる。
 それがいやなら生産手段を持てということになり、生産手段を持った人間のクラスというものが考えられる。それは労働者というクラスではない。労働するのはみんな労働者というのではない。
 
  man_A = new 労働者()
  man_B = new 農民()
 
 クラスが違うのである。で、社会主義革命にとって最大の敵はman_Bだということをスターリンはよく知っていたので、独裁的にそれを絶滅させようとした。毛沢東はそこで倒錯してむちゃなクラス継承を行おうとした。大間違いである。こいつらマルクスの基礎にあるヘーゲルがわかってねーのな(歴史精神というもの)。
 で、ITだ。ITは人の生産手段と分業の関係になにをもたらしたか。そこで資本は社会のなかでどう振る舞っているか。マルクスが今いたらそれを考える。私はマルクスではないので考えない。
 話を戻す。
 人が voluntary に work すれば、時間はあなたのものになる。しかし、現実は労働は時間の拘束によって表れる。権力の一義の機能とは、この拘束力なのだ(フーコーはよく知っていた)。
 人生とはスパンであり、自分の支配する時間と自分が支配できない時間の振り分けである。
 そしてカネというのは、もちろん、欲望に関わるのだが、時間を支配と質に関わる。
 カネがあれば無理な労働拘束時間が減るし、カネを減らせば暇になる。で、暇だけあってカネがなければ欲望が(つまり他者との関係が)萎えがち、だって人は欲望で動く。
 ま、ちょっと思想的には未整理っていうか、ネタかよか。
 で、本論、こっからが本論だったりする。そして本論はすごく短い。
 人生は有限である。あと5年で死ぬなら、自分の時間をどう配分するか? あと10年死ぬなら自分の時間をどう配分するか。
 マクロ経済学に詳しそうなぶいぶいさんたちがあまり言わないが、現代先進国家では経済のグリップは消費者の可処分所得に支配されており、その支配の「期待」のようなものは生涯所得予想によっている。そんなもの予想できないとか心理的に考えるのではなく、結果からそういうものが出てくるということ。別の言い方をすれば特定の年代の特定の階層の人はなにげにそういうものを想定して消費活動している。
 で。
 消費しているのはカネだけではなくて、時間もなのだ。人生の時間は減っていく。(正確にいうと、生涯所得予想に人生時間の予想も含まれているだろうけど。けどそれほど明確ではない。相続なども関係。)
 そこで、当然ながら、どう時間を労働に振り分けるかという均衡点が出てくるというか、その均衡点の予測が出てくる。
 ぶっちゃけて言えば、その椅子にあと何年座っている? その界隈をあと何年歩いている? それが自分の人生の時間の配分にとって十分な均衡か。そしてそれはどのように変化していくか?
 
関連過去エントリ
 ⇒ マルクスの労働価値説
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カール・マルクス: 吉本 隆明