追悼楊名時先生

 ⇒楊名時氏死去/日本健康太極拳協会最高顧問
 先生に直に太極拳を習ったことがある。とりまきのパフォーマンスがなんだかオカルト臭みたいなぼけぼけ感を漂わせるなか、先生の模範演技には、武道の骨格があった。
 もともと24式は楊家のものだが、中国政府の指導のあれと、楊名時先生の本格は違っていた。先生はあまりかたらなかったが、本当の楊家の本質を伝えようとしていたのかもしれない。が、そこは、なんというか、テッテ的に中国人なのか、あせりはなかった。高弟がぼけぼけ感を漂わせても泰然としていた。批判はなかった。
 もととも先生は、日本に政治を学ぶために来たのだった。
 ふと思い出すに奇妙な感動に打たれるのだが、先生は私にあえてそのことを答えてくれたように記憶する。私が不躾な質問をしたわけでもなく、ある種の心中を察しておられたようだ。
 光圀が朱舜水に指事したのはああいう感じだったのだろうか。
 楊名時先生は偉大だったか。
 そこはよくわからない。夢破れた人生でもあっただろうが、それなら舜水は夢破れただろうか。
 中国人にはかく底知れぬ偉大なというか深みを持つ人がいる。それが特にどうということなく、また漢籍の臭みもなくその本質を実現していることがある。その秘密が私にはわからないが、それが聖人の道というものでもあろうかとも思う。
 深く哀悼するし、日本にこれを伝えてくれて、ありがたく思う。