ポ、ポ、ポエム…

 エズラ・パウンド(Ezra Pound)の詩だったか
 たまたま紛れ込んだM教授の授業だったか
 それとも生涯辞書を編み続けたS教授のお弟子のS教授の授業だったか
 それともT・S・エリオット(Thomas Stearns Eliot)の詩だったか
 ----それはないなきっとたぶん雨の予感のように
 ----そんな構成的な詩じゃなかったしどこにもそれはそれはそれは
 初夏の日だった
 背の高い窓の向こうの
 少し淡い大空を
 よく広げた毛の薄い猫のような雲が流れていき
 たぶん僕の知らない人たちの町では
 ちょっと固めのビジネスが繰り広げられているのだろうけど
 その詩のなかでは
 世人の営みの盲点となる天空のかたすみで
 イカロスは失墜したのだと
 -----やはりその趣味はパウンドだったかと思う
 人はそうして知らぬとき
 ふとしたときに気付かれることなく失墜していくのだと
 だれもそのイカロスを見ることはできないのだと
 そうでなければ世人と多角形のような世界の内側がそうであるように
 静かに老いていくのだろうたぶん白い石のように
 S教授はたぶん先生のS教授のように髭を伸ばし
 M教授と並びの教室はがらんとしているか
 あるいはその詩を今でも講じておられるのだろうか