宗教の最終のすがた―オウム事件の解決


吉本隆明 芹沢 俊介
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現世を実体とする考え方、あるいは死後、あるいは涅槃の世界を実体化していることとちがうところでわずかに言えるのは、生きるのは苦なんだということね。しかし苦なんだと言うだけなら、仏教の僧侶も昔の人も、この社会は苦だ、生きること苦だと言っているじゃないかということです。それ以上のことがあの人の言っていることにあるのかということになる。そこが問題なんです。
(中略)
市民社会のだれでお、ある瞬間には、生きているのは苦だなあとか、生きているのはいやだなあとおもうわけですから、それを全部苦だとおもい、前世を否定できるようになるのは、つまり来世とか、あるいは真我の世界とか、そういうものを得られる前提があるわけです。それならばその途中をどうしてくれるんだといいますかね。その過程をじぶんなりの独自の思想でつなげるというか、それをひとつの世界観として、宗教的な世界観として言ってくれ。そうしたら、この人は昔の高僧に匹敵する人だと掛け値なしに言っちゃうけどなあ。けれどそこを言えないならば、またそこを言わないならば、それはそれほどの人じゃないよ、となっちゃうかもしれません。

 というわけで、10年が過ぎ、吉本が期待していたことはなかった。
 麻原は、それほどの人じゃないよ、ということでとりあえず終わりにしていいだろう。