オバマの孟子引用だが

 朝日新聞社説のところに。

 それにしても、今回の対話で米国の中国への気遣いは尋常でなかった。オバマ大統領は「米中関係が21世紀を形作る」と2国間関係を持ち上げ、「山中の小道は、使ってこそ道となるが、使わなければ茅(かや)でふさがれてしまう」と孟子の言葉を引用して協力と対話の継続を強調した。人民元切り上げについての注文はしなかったという。

 朝日の中に教養人がいなくなったのか、いても、しょーもないなと黙っているのかもしれない。
 オバマ孟子を知っているとは思えないので、いや知っているかもしれないが、知っていても現代英訳とかで概論的に読んでしまって、日本人や朝鮮人のように白文を尊ぶというふうには読まない。この差はいろいろ決定的なものがあるが、ちょっと偏見で言うと、たいていは、トンチキな誤解をする。というか、このような場で、「孟子」を持ち出す神経がわからない。どっかの青二才のスピーチライターが中国の名言集みたいなものをひっぱり出したのではないか。いや留保して違うという可能性も認めないではないが。
 この言葉だが、「孟子」尽心篇下にある。

白文

孟子謂高子曰。山径之蹊間、介然用之而成路、為間不用、則茅塞之矣。今茅塞子之心矣。

下し

孟子高子に謂いて曰く、山径の蹊間、介然として之を用いれば路を成す、間を爲し用いざれば、則ち茅これを塞ぐ、今や茅、子の心を塞ぐ。

孟子は高子にこう説いた。山中の小道は、きちんと用いていれば道になっているが、使わぬ時があれば、茅など雑草が塞いでしまう。今、この雑草が君の心を塞いでいるのだ。

米国大統領は中国政府にこう説教した。米中関係というのは緊密な連絡があればそれなりに意思の疎通もあるものだが、それがなくなれば、両国内外の反対勢力が障害になって、国家の健全な交流はできなくなる。現在はといえば、中国内外の反北京勢力の謀略や利権に追われて、中国は米国と意思疎通が難しくなっているのだよ。
 
 まあ、そういうことです(私の解釈が違っているかもしれないが)。
 オバマ・オリジナル⇒The White House - Press Office - Remarks by the President at the U.S./China Strategic and Economic Dialogue

Thousands of years ago, the great philosopher Mencius said: "A trail through the mountains, if used, becomes a path in a short time, but, if unused, becomes blocked by grass in an equally short time." Our task is to forge a path to the future that we seek for our children -- to prevent mistrust or the inevitable differences of the moment from allowing that trail to be blocked by grass; to always be mindful of the journey that we are undertaking together.

 ということで、オバマ・オリジナルでは"今茅塞子之心矣"が抜けていた。意図的かわからん。
 中国で、清朝末時代でも普通の知識人(読書人)がいたら、この手の米国大統領の非礼にやんわりと教養で返しただろう。
 ただ、今回の経緯、そこまでオバマ、というかそのスピーチライターがわかっているわけでもないと思うので、こういう、東洋の知識人に嘲笑されそうなことはやめとけと、そう示唆する知識人がオバマの周辺にいないことはわかった。