木曜日

 いろいろあったという一日でもないが、なんというのか、2月末日を迎え、長い冬が終わったなあという感じはした。幸運だったなとも思う。これから寒い日もあるのだろうけど。
 いろいろ、それなりに日常の感覚に戻していかないといけないのだけど、というと、まるで非日常だったみたいだが、それなりに本とか出すと基調音のような緊張はある。というか、こういう本をということなのだろう。
 いろいろご感想をいただき、それが、否定的なものであり、正確に書籍を反映し、自分に返ってきて、また深く考えさせられる。
 うまく言えないが、自分が正しいとはさっぱり思わない。正しいことを書いたという意味ではない。間違ったかという意味合いではない。この本についていえば、表現や創造ということでもない。
 まあ、しゃれみたいだけど、自分自身、考えさせられることが多い。

フィナンシャルタイムズで学ぶ英文解釈

 話題の見渡しがいいように、最初に問題を出しておきましょう。普通の英文解釈の問題です。ひっかけとかありません。これです。


次の英文を訳しなさい。
Mr Abe should hold his nerve by nominating someone willing to be bold in pursuit of mild inflation.
 別段トリッキーな英文でもないので、高校生でもできただろうと思います。
 その話は後ほど。
 この英文の出所ですが、日本の政治・経済を扱った最近のフィナンシャルタイムズの社説の一部です。
 フィナンシャルタイムズの社説は、日本のメディアでなぜか紹介されていなかったり、紹介されても、「その紹介はどうなんだろう」といった印象のあることがあり、そんなおりは、ちょこっとブログで言及してきたものでしたが、先日といっても2月25日、安倍首相の今後の施政を提言した、この社説「安倍の次からの手(Abe’s next steps)」(参照)が、もし日本のメディアで、なぜか、無私されているようなら、またブログで紹介でもしようかなと思ってました。
 が、日経新聞参照)とJBPress(参照)とで翻訳が掲載されていて、じゃあ、特にこのブログで扱うこともないだろうなと思っていました。
 ただ、ちょっと内容とは関係なしに、普通に英語のお勉強としてちょっと気になることがあったので、ブログのネタかもしれないと思った、と。
 該当社説の翻訳ですが、これは日経を責めるというわけではありませんが、いつもどおり、なかなか含蓄のある抄訳でした。日経訳とJBPress訳を並べてみるだけでも、その味わいがわかると思われます。

日経訳
 だがここからは問題が複雑になる。まずは、物価上昇率2%の目標達成に全力を尽くす人物を日銀総裁に指名することだ。国際社会は日本が直接的な為替介入と見なされる外債購入に踏み切ることを警戒している。

JBPress訳
 だが、ここから先は歩みが難しくなる。安倍氏の最初の課題は、2%のインフレ目標を達成するために全力を尽くす意欲がある日銀総裁の任命を確実にすることだ。選択肢は狭まってきている。
 国際的には、日本は外債を買わないよう忠告されている。外債購入は露骨な為替介入と見なされるからだ。国内では、財務相麻生太郎氏が急進的な人事に抵抗している。安倍氏はひるまずに、緩やかなインフレを追求するうえで大胆になる意思がある人物を指名すべきだ。
 訳文を並べただけで、日経がどこを省略しているかは一目瞭然でしょうし、その理由も察せられるので、そこは大人の礼儀で突かないことにして、このあたりで該当の英文を眺めるとこうなっています。

From here, though, things will get trickier. His first task is to clinch the appointment of a Bank of Japan governor willing to pull out all the stops to meet a 2 per cent inflation target. Options are narrowing. Internationally, Japan has been warned not to buy foreign bonds since this would be regarded as naked currency intervention. Domestically, Taro Aso, the finance minister, is resisting a radical appointment. Mr Abe should hold his nerve by nominating someone willing to be bold in pursuit of mild inflation.
 日経訳はさておき、原文をJBPRess訳に付き合わせると、適切な翻訳になっているように思えるわけですが、ようやく冒頭の英文の一文、ここに含まれているわけです。
 

Mr Abe should hold his nerve by nominating someone willing to be bold in pursuit of mild inflation.
 
日経
物価上昇率2%の目標達成に全力を尽くす人物を日銀総裁に指名することだ。
 
JBPress
安倍氏はひるまずに、緩やかなインフレを追求するうえで大胆になる意思がある人物を指名すべきだ。
 日経のほうは抄訳なんで、英文との対応はないといえばないのですが、ポイントは、"nominating someone"の理解です。
 別の言い方をすると、"willing to be bold in pursuit of mild inflation"が、どこを修飾させいているか。日経もJBPressも、これを「人物」="someone"の修飾語としているわけです。
 結論からいうと、それでいいのですが、読みようによっては、"willing to be bold in pursuit of mild inflation"を文のdangling(ぶらさがり)にならないかと、ちょっと思ったわけです。仮にそうすると、訳文はこうなります。

Mr Abe should hold his nerve by nominating someone willing to be bold in pursuit of mild inflation.
 
danglingの場合その1(普通にぶら下げる)
安倍氏は、大胆にマイルドなインフレーションを追求しつつ、傑物を指名することで度胸を示すべきだ。
 
danglingの場合その2(結果の含みを持たせる意訳)
安倍氏は、傑物を指名することで度胸を示すべきだし、それで大胆にマイルドなインフレーションを追求することになる
 
普通の修飾の場合
安倍氏は、大胆にマイルドなインフレーションを追求する傑物を指名することで度胸を示すべきだ。
 まあ、意味的にも、someoneの慣用表現でも、danglingということはないのだけど、日本語でも句点の打ち方で意味がずれるみたいなことが、英語にもあるという話でした。